プラムで作る蒸留酒「スリヴォヴィツェ」にまつわる、あたたかい思い出【いろどりのチェコ vol.16】

【いろどりのチェコ vol.16】思いがけない出会いがあったのはレストランからの帰り道だった。

 

地産のチェコ料理を楽しむ

 

三月上旬某日。列車で一時間ほど離れた街で留学生活を送る友人が私を訪ねてくれた。

 

特に目立った観光名所があるような街では無いので、どこを案内しようか悩む。

彼女が住んでいるところは都会なので、なんてことのない住宅街や田舎道を歩くだけでも目新しいかしら、などと考える。

 

 

私の家からバスで10分ほどのところにある風車のある景色の良いローカルレストランへ行くことに。

お目当てはこの地方特産のモラヴィアワインとチェコ料理。

田舎にポツンとあるレストランといえば、すごく美味しいか、はたまた真逆か、のどちらかであるのは万国共通のように思うが、こちらは前者。スープから始まり、ボリューム満点の肉のメインディッシュ、名物のワイン(下戸の私はノンアルコールワイン)、デザートに山羊のミルクのアイスクリームまで満喫。舌の肥えた日本人にも紹介できるお店なのだ。

 

 

 

 

 

新たな出会いとおもてなし

 

思いがけない出会いがあったのはそのレストランからの帰り道だった。

 

レストランを出てバス停まで歩き始めたのだが、このまま真っ直ぐバス停まで歩いてしまうとバスが来るまで時間が余り過ぎるため、道を外れて村の住宅街を散歩してみることに。

というのも、この辺り、可愛い住宅ばかりなのだ。庭先の手作りデコレーションや壁のペイントなどなど。

 

 

 

そんな可愛い家々を見ながら歩き始めて間もなく、自宅の庭で木工作業をしているおじさんに出会った。

観光地でも何でも無い住宅街をアジア人が歩いているのだからさぞ怪しいだろうに、にこやかに話しかけてくれるおじさん。

 

「こんな所で何してるの?旅行?」

 

「いえいえ、私たちはチェコに住んでいて、そこのレストランでご飯を食べて、今はバス停へ向かっているところです」

 

そうすると、おじさんが「お酒、飲む?」と訊く。

この地域の特産であるプラムで作る蒸留酒「スリヴォヴィツェ」を自宅で作っているらしい。

 

私はアルコールに弱いのでレストランでは飲まなかったのだが、ここで断るのは野暮というもの。少しなら大丈夫だろう。

 

おじさんが庭から家の中へ向かって夫人に「グラス持って来てー!」と声をかけている。ショットグラスを4つ持って表へ出てきた夫人は突然庭先に知らない日本人がいるという状況を飲み込めないながらも笑っていた。

 

貯蔵庫の中は、小さな居間のような可愛くしつらえられたお酒を飲むための部屋と、いわゆる昔ながらのワインセラーに分かれていた。セラーの中はひんやり涼しく、何種類かのお酒が樽に入って並んでいる。チェコの主食であるジャガイモのストックも転がっている。

 

 

 

「スリヴォヴィツェ」のアルコール度数はなんと50%!

ショットグラスに入れてもらった透明の液体はプラムの甘い香りで、「梅酒みたいだね〜」なんて笑っていたが、ひとくち口に含んでみると胃がカッと熱くなるアルコールの強さ。思い切って飲み干したらおかわりを勧められたが、帰宅出来なくなるといけないのでそれ以上は遠慮した。

 

 

 

たまたま家の前を通りかかっただけの見ず知らずの外国人を、彼らにとって大切な空間であろう貯蔵庫に招いてお酒をご馳走してくれたチェコ人のご夫婦。

これはたまたま住んでいる近くの村で起こったことだけれど、体験したことはまるで旅の途中のハプニングであった。

 

観光スポットを点で結ぶ旅行ではこういう想定外は生まれない。田舎で、しかも回り道をしたからこそ得たボーナス体験。

 

ずっと心に残るでだろう温かい体験だった。旅を豊かにするのはこういう出会いだなぁ。

 

 

 

文・写真:Noriko Naniwa
Blog:https://www.howtobeczech.com