【甲斐みのりの隙間の時間】変わるもの、ずっと変わらないもの

日本初の本格的なフランス菓子店として大正13年に創業した「コロンバン」。昭和初期に開店し、フランス風にサロンを併設した銀座コロンバン本店を彩ったのは、藤田嗣治の天井画。名古屋支店の喫茶室には東郷青児の壁画も置かれていたそうです。

 

昭和27年には若き日の上皇陛下が、お忍びで銀ブラを楽しみながら、銀座コロンバン本店で、アップルパイと紅茶を召し上がったというエピソードも。現在の本店は昭和42年から53年の長きに渡り原宿駅近くの表参道沿いで営業を続けてきた「原宿本店サロン」に移り、ビルの屋上では養蜂が行われています。

 

そんなコロンバン原宿本店サロンが、再開発事業に伴い、2月16日から一時閉店すると発表されました。賑やかな原宿・表参道の中でも、私たち祖父母や親世代も安心して利用できるコロンバン原宿本店サロンは、華やぐ街の中でも落ち着いた雰囲気でゆったり寛げる貴重な存在。サロン・ド・テが併設されたコロンバンの店舗は、他にも「京王新宿サロン」があるけれど、大きな窓の外に広がる表参道の見晴らしはドラマチックで、そこで過ごす時間はいつも特別なものでした。

 

このビルのこの店内でお茶ができるのもあとひと月。そう思ったら、あれもこれも味わっておきたいと欲張りに。現在開催中の苺フェアからは、ミルクレープの間にスライスした苺をはさんだ「ミルクレープオフレーズ」と、ベイクドチーズケーキを流し込んだタルトの上に苺のコンポートをたっぷりのせてレモン風味のチーズクリームで包んだ「タルトフロマージュオフレーズ」を。それから、ビルの屋上で採れた「原宿はちみつ」を食パンにしみこませ、季節のフルーツとホイップクリームをサンドした贅沢な「原宿はちみつフルーツサンド」と、「原宿はちみつジンジャーレモネード」。さらには、1950年代に提供していたホットケーキを再現した、2段重ねの「ホットケーキ」も。友人と二人でお腹いっぱいいただきました。

 

中でも感動的なのが、花森安治さんが気に入って、『美しい暮しの手帖 7号』(その後『暮しの手帖』に改名)に写真付きで作り方が紹介されたこともあるホットケーキ。NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』でも、雑誌でホットケーキの作り方を紹介する場面がありましたが、そのモデルでもあるのです。

 

『美しい暮しの手帖 7号』ではもちろんのこと、昭和36年に発刊されたコロンバンの小冊子『Bonbon』にも、ホットケーキの作り方が紹介されています。(コロンバンに縁のある著名人がエッセイを執筆していたBonbonの一部は、コロンバンのホームページで読むことができます)まるでベレー帽のような愛らしさのある昔ながらのホットケーキは、ふんわり優しく実直な味わい。「これぞ子どもの頃に憧れた、そして今も毎日食べたくなるような、理想的なホットケーキ」と、ペロリと二人で平らげました。

 

本当は、まだまだ食べたいメニューがあったけれど、また次回のお楽しみに。入口の洋菓子カウンターには、昭和26年には既に看板商品として販売されていた「マーブルケーキ」の復刻版や、上皇陛下も味わったことにちなんで“殿下のアップルパイ”と親しまれる「プレミアムアップルパイ」、宝石のような「ロワイヤルボンボン」や、バラの飾りがあしらわれた「バタークリームロール」と、手土産にも選びたい老舗洋菓子店ならではのクラシカルなお菓子がずらり。眺めるだけでも心が浮き立ちます。

 

大正13年に建てられたJR原宿駅の木造駅舎も、東京オリンピック後に解体されることが決まっており、めまぐるしく変わる東京の景色。好きな店、好きな味を、その都度しっかり噛みしめておきたい。

 

甲斐みのりInstagram @minori_loule