開催レポ!”食”をテーマに九州初上陸した現代版寺子屋「スクール・ナーランダvol.5佐賀・願正寺編」

今回の『スクール・ナーランダ』は九州初開校!2月8日(土)・9日(日)の2日間、創建1600年の名刹・佐賀の願正寺で行われた学びの場の参加レポートをお届けします。

テクノロジーによって多様な選択ができるようになった未来に、あなたはどのような食生活を選び、送っているでしょうか?

2月8日・9日、佐賀・願正寺にて、現代版寺子屋「スクール・ナーランダ」が開催されました。仏教を軸に、科学者、エンジニア、芸術家など多様な分野の講師と10代〜20代の参加者たちが一同に会し、学びを深めるイベントです。過去5回行われてきた本イベントは、九州の佐賀で開催されました。

テーマは、「あなたは、あなたが食べるものでできている。~生きものの営み、土地、テクノロジー、『食』をめぐる考察」です。未来の食のあり方について考えたイベントの様子をレポートとして共有します。

まずは、スクールナーランダで話されたことをベースにした近い未来にありえるかもしれない、食にまつわる創作ストーリーをお読みください。

20XX年の地球の食卓

「なんとか締め切りに間に合わせないと…」

すでに電気の落とされたオフィスに、パソコンのキーボードを打つ音が響く。
時刻は23時をまわり、原稿の入稿 締め切りまで1時間をきっている。

「今晩も食べる時間はとれなそう。」

新卒で入社をして4年目、彼女も今や新入社員の面倒を見る立場となり、任される仕事も大きくなっていた。入社1年目は右も左も分からずあの時はあの時で忙しい毎日だったけれど、ご飯をつくって食べる時間は何とか確保できていた。でも、26歳になった今はご飯をつくる時間がとれないくらいに、忙しい。

今日だってこれから原稿を提出して電車で自宅に帰ることを考えれば、料理をする余力も時間もなさそうだ。そう判断すると、彼女はキーボードを打つ手を止め、デスクの下に置かれたキャンバス地の大きめなトートバックに手を伸ばした。

「時間のない日は 本当に助かる!」

バックから取り出した500mlサイズのスプレー缶の噴射口に専用のストローを嵌め込み、彼女は深く空気を吸い込んだ。スプレーのラベルには”Enjoy having AIR! 空気食”という表記に加え、一缶を吸収することで一食分の栄養素を補給できるとの説明が添えられている。

空気食とは、遡ること数世紀前、地球の人口の急増と温暖化や異常気象による食糧危機が重なったときにバイオテクノロジーによって開発された新たな食事法だ。

”ぴるるるる ぴるる”
静まりかえった深夜のオフィスに響く着信音に驚きながら、電話に出る。

「はい、もしもし」
「もしもし、イマリ、お母さんだよ。もしかして、こんな遅い時間まで仕事してるの?」
「お母さん!こんな遅い時間に、どうしたの?うん、ここ数日とっても忙しくて…。」
「あら、もう12時前じゃない。ご飯、ちゃんと食べれてる?」
「それが、食べてる時間なくてね。最近は、専ら”空気食”にお世話になってるよ。」 「そんなことだろうな〜って思って、3日ほど前に食糧 1箱 送ったのよ。まだ受け取ってないみたいだから。」
「え、ありがとう!今週はじまって毎日終電で帰ってたから気づかなかった、ごめんね。」
「そういえば、先週から兄ちゃん佐賀に帰ってきてるんだけど、佐賀のご飯は美味しいって毎日幸せそうに食べてるよ。兄ちゃん イマリのこと、元気でやってるか心配してたよ。」
「兄ちゃん帰ってるの?ここにきて農家継ぐとか言い出したりして。ないか。」
「そうなのよ、あんなに東京でバリバリ仕事してたのに、美味しいご飯を家族で囲む時間の有り難みが今になって染みるみたいで、農家を継ぐことも考えてるみたい。びっくりだよね。」
「へぇ〜兄ちゃん絶っ対に継がないと思ってた。でも確かに空気食の日が続くとなんか元気が出ないんだよね。あ〜私もお母さんのつくったご飯が食べたいな〜」
「イマリも佐賀に戻って、ウチ継いだら?」
「兄ちゃん継ぐなら、それもいいかも。なんか最近思うけど、私もやっぱり食べることって大事な気がするもん。」

5分ほど話した後、イマリは電話を切り、原稿の締めに取り掛かった。薄暗いオフィスにはスプレー缶の音とタイピングの音だけが響いている。

食をテーマに開催!
現代の寺子屋「スクール・ナーランダ」佐賀・願正寺 編

近い未来に、この創作ストーリーのような日常がやってくるかもしれません。こんな話をつい想像してしまうような、食にまつわるお話が飛び交った今回のスクールナーランダ。さまざまな講師の方を迎えて開催いたしました。

講師は、地球生命の起源の謎に挑む気鋭の生物学者・藤島皓介さん、テクノロジーと社会の関係を表現するアーティスト・長谷川愛さん、食/文化人類学/アートを融合した活動を国内外で展開する料理家・船越雅代さん、佐賀の茶処・嬉野で課題や革新に取り組む生産者ユニット・嬉野茶時(うれしのちゃどき)、そして浄土真宗本願寺派の僧侶という顔ぶれでした。

栄養摂取のための食

まずは宇宙生物学者の藤島皓介さんの講義から始まりました。藤島さんが語るのは、生命と食にまつわる科学の法則について。食べ物を食べた私たちの体内で何が生じているのかについて理解を深めました。

藤島「生命とは、外からエネルギーを取り入れるシステムです。良質なエネルギーとなる電子を取り入れ、排泄物を吐き出すことを繰り返しています。食とは電子の移動であり、酸化と還元という反応を繰り返しています。」

電子の移動や酸化と還元という科学的な事象として「食べること」を語る藤島さん。それらを想像しながらご飯を食べている方は多くはないかもしれません。藤島さんは合成生物学の進展により食材の幅がさらに広がる可能性について話されました。

テクノロジーで可能になるガスや電気を食べる未来

テクノロジーによって新しく選択肢に挙がるのは、たとえば「ガス食」「電気食」です。テクノロジーの進歩とともに、小説の主人公 イマリちゃんが忙しさ故に選択した、「ガス食」「電気食」という食べ方が当たり前に受け入れられている世界が訪れるかもしれません。

次に登壇したのは、アーティストの長谷川愛さん。「人間の欲望を捨て去って、楽に生きたい」と話す長谷川さんは、「未来にこういう世界がありうるのかもしれない」という、つい未来を想像してしまうアート作品(「極限環境ラボホテル、木星ルーム」「私はイルカを生みたい…」「インポッシブルベイビー」など)をいくつも紹介してくれました。私たちの思考の前提になっている物の見方や倫理観が長谷川さんの作品を鏡にしながら、浮き上がってくるようです。

テクノロジーによって未来を形作っていく選択肢が増えていけば、思いもよらぬ食のあり方が当たり前に選ぶことができるようになる未来が広がっていきますが、あくまでもそれらを活かしたライフスタイルを受け入れていくかどうかは人それぞれです。

長谷川さんのお話では、具現化された「ありうる世界」を提示された時のざわざわした感覚や、葛藤する感覚に気づくことができました。

生きることは殺すこと

私たちが食べ物を食べるには、植物や動物を殺す必要があります。

「せっかく頂戴するいのちだから、一つ一つを粗末にしちゃいけない。ありがとうと生きていくしかない。」

このように話す僧侶の松月博宣さんは、仏教の考えを例に出しながら、殺すことでしか生きることができない私たちの食への向き合い方について語り、当たり前に成り立っている状況も「当たり前ではなく有り難いもの」であるということを諭してくれました。

食を通した喜び

2日目は、食とアートの領域で活躍する料理家 船越雅代さんのお話からはじまりました。

船越「どこで作られたものか分からない、誰が作ったものか分からない時代のなかで、私は料理には、媒体(メディア)の役割があると思っている。私の料理を通して、その料理の文化や食材、職人の想いについて触れてもらう。みんなに楽しんでもらう。食べることの悦びを伝えたい、感じてもらいたい。」
船越さんが作り出す料理の数々は、その土地のものを活かし、見た目も印象的で、それを囲む人たちは楽しそうです。

次に話されたのは、浄土真宗本願寺派が運営する「あそかビハーラ病院」で働く僧侶の花岡尚樹さん。「あそかビハーラ病院」は、治る見込みがない癌患者の方々のための場所で、年間で150名ほどの方が亡くなっています。

次に話されたのは、浄土真宗本願寺派が運営する「あそかビハーラ病院」で働く僧侶の花岡尚樹さん。「あそかビハーラ病院」は、治る見込みがない癌患者の方々のための場所で、年間で150名ほどの方が亡くなっています。

そのような現場で、花岡さんは「最後に食べたいものは何ですか?」と患者さんに質問するのだそうです。あまり高級な食材の話が出てくることは少なく、日常の些細なもの、昔の物語を思い出すようなものを食べたいと答える人が多いようです。

とある患者さんは、昔 貧しかった頃にお母さんがサバ缶でつくってくれた料理の味が忘れられないということを思い出し、「サバ缶」を食べたいと話されたそうです。

単なる栄養補給としての食だけではなく、私たちは過去の記憶や、人とともに食べ物を囲むことに価値を感じるのでしょう。

佐賀の食を堪能しました

1日目、2日目ともに、今回は開催地の佐賀にちなんだ方々による食べ物をいただきました。
昼食にいただいたのは、佐賀県出身の弓削啓太シェフが作った「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」で世界1位に輝いたパスタです。

お茶のパフォーマンスを楽しむ時間もありました。佐賀の茶処嬉野で課題や革新に取り組む生産者ユニット「嬉野茶時(うれしのちゃどき)」。自ら育てたお茶を独自のお手前で淹れるティーセレモニーを体験しました。肥前吉田焼の茶道具をつかって淹れられた美味しいお茶と、嬉野のお菓子を美味しくいただきました。

さらに、佐賀の銘菓・北島の丸芳露(まるぼうろ)もいただきました。
頭で考えるだけでなく、美味しい食べ物の数々を体感し、身も心も温まる時間になりました。

多様な食の選択肢と自分自身の選択

食にまつわるたくさんの話が出たスクール・ナーランダ in 佐賀・願正寺。それぞれのゲストの方々による鼎談や参加者同士の対話の時間もありました。

「テクノロジーが圧倒的に発達した社会で「食べる」ってどういう意味をもつのか。答えはないけれど、こんな問いを持った自分に驚いています。」

「私たちは食したもので身体ができているけれど、その食したものも食したもので出来上がっている。科学肥料の問題もある。そうすると、テクノロジーの発達によって、もっとピュアな栄養価の高いものが実現できるのかもしれない。」

未来を築く次世代にあたる参加者こそが、テクノロジーの利用を前提としたこれからの時代の食のあり方を左右していきます。

必要最低限の栄養素を摂取だけであれば、将来的には「ガス食」などの無機質な食のあり方で十分になるかもしれません。それを実現するテクノロジーは着実に開発されつつあり、技術の発展に伴い「こんな食もありうる」という選択肢は確実に増えていくのでしょう。

しかし、私たちは実際に、そのような選択をしていくのでしょうか?
「食べる」ということに私たちが期待しているのは、生存のための単なる栄養補給だけではなく、歴史的に継承されてきた文化を楽しむことかもしれません。

次回 第6回目のスクール・ナーランダは、山口での開催を予定しています。お楽しみに!

 

■基本情報
「スクール・ナーランダ Vol.5 佐賀」
日 時: 2020年2月8日(土)・9日(日)
会 場: 佐賀・願正寺
講 師:〈2/8〉
藤島 皓介(宇宙生物学者)
長谷川 愛(アーティスト/デザイナー)
松月 博宣 (浄土真宗本願寺派 僧侶)
【特別協力】弓削啓太(横浜「SALONE2007」シェフ )

〈2/9〉
船越 雅代(料理家)
嬉野茶時(嬉野茶生産者ユニット)
花岡 尚樹(浄土真宗本願寺派 僧侶)

■主 催:浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室
■企画・ディレクション:エピファニーワークス

◎「スクール・ナーランダ」Facebookページ
https://www.facebook.com/HonguanjiNalanda/

テキスト:森紗都子、三浦祥敬(共にチーム・ナーランダ)
20XX年の地球の食卓イラスト:森紗都子(チーム・ナーランダ)