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『アンネの日記』のアンネ・フランクがこの仕事を始めたきっかけです。【あの人の仕事とモノ 後編:小林エリカさん】

前回に続き、作家・漫画家・アーティストの小林エリカさんのインタビュー後編をお届け。 今回は小林さんの仕事現場から、その創作の原動力に迫ってみた。

 
前回に続き、小林さんの文房具コレクションをご紹介。レトロで可憐なパッケージが素敵な空き缶は彼女のイメージにもぴったり。いただきもののお菓子の箱もつい集めてしまうと笑う。


 

書くことで永遠に生き続けられると気づけた。

この世界を目指すきっかけは、幼少期に読んだある1冊の本だったと小林さん。

 

「小さい頃に、アンネ・フランクの『アンネの日記』を読んだんです。

本の中で、彼女が作家かジャーナリストになりたいと書いてるんですが、10歳の私には、こんなにかっこいいお姉さんがいるんだと衝撃的で。

そのときから私も作家になりたいと思っていました。

〝私の望みは、死んでからもなお生き続けること〟と彼女は書いているんですが、書くことによって〝そうか! 死なないんだ〟ということが初めてわかって。

作家を志すきっかけがこの1冊でした」

 

テンプレートを使ったドローイング風景。和紙、Gペンやインクも、小林さんの大切なパートナーだ。


 

自宅にあったこの『アンネの日記』が、彼女の運命を変えていくことに。

 

「しばらくそのことは忘れていたんですが、私が30歳を過ぎて父が80歳の誕生日を迎えた時に、その父が16〜17歳の頃につけていた日記をたまたま見つけて。

それがちょうど戦時中の日記で、そこでアンネ・フランクと父が同じ年の生まれだったことに気づきました。

そこで、アンネの日記と父の日記を持って旅をしてその二冊の同じ日の日記を読みながら、私自身も日記を書き記した本が『親愛なるキュリーたちへ』です。

作家になりたい、何かを書きたいという私にとって、大きな転換点でしたね」

 

近年は、目には見えない放射能を題材にした作品も多く、膨大な知識も必要になる。

一体何が、彼女の興味を駆り立てるのだろうか。

 

「よく社会的なことが好きと思われがちですが、なぜ自分が今を生きているのかを知りたいだけなんです。

この時代のこの場所でこんな風に生きているということが、私にとってすごく不思議なことで。

自分の半径5メートルくらいのことを突き詰めていくと、家族のことだったり、過去のことを考えざるを得なくなっていきます。

戦争のこともですし。今につながる時間の中で何があったのかを調べる過程が続いているだけなんですよね。

歴史に興味があるのではなくて、なぜ今があるのかっていうことへの疑問ですね。

そういう目に見えないことを見たい、どうやったらそれを紙の上に描きつけられるんだろうといつも考えています」

 

小林さんの仕事デスクには、今まで手がけた作品が並んでいた。


 

この目に見えないものに興味が湧き始めたのは、ごく最近のことだという。

どうやったら紙の上で表現できるのか、それを探りながら描くことはとても楽しいと小林さん。

以前は、夜遅くまで仕事することも、土日に作業することも多かったというが、約2年前の出産を機にその生活は一変。

お子さまを保育園に預けるようになってからも、今の生活のリズムを掴むまでには約1年かかったという。

 

「10ヶ月くらいの時から入園できたんですが、保育園の先生方のありがたさを、本当に実感しています。

だいたい朝8時半〜9時くらいで保育園に連れて行き、お迎えに行く18時までが仕事の時間です。

もう、すぐに時間が過ぎていってしまいます(笑)。

やっぱり気持ちは焦りますね。時間の作り方も、まだわからないことがたくさんあって。

いつも時間が足りないと感じていて、もっともっとやりたいという気持ちもあります。

放射能の名付け親でもあるマリ・キュリーとか、子どもを2人も育てながらいったいどうやって研究を続けたんだろう、すごすぎる……とか考えたり。

特に小説やマンガが佳境をむかえたときや展覧会前などは、家がカオスな状態に(笑)。

そんなときは、〝でも、みんながみんなノーベル賞2度も受賞するような科学者級じゃないんだから! 全部完璧じゃなくても、まあいいか〟っていう気持ちで過ごすようにしています」

 

優しい空気を纏っている小林さんのイメージからは、想像できない意外な一面。

こんな風にときには力を抜くことも、働く女性には大切なことなのかもしれない。

女性から憧れる対象である小林さんだが、ご自身の憧れる女性像とは?

 

「賢く、美しい女性ですね。10歳のときに出合ったアンネ・フランクがまさにそう!

本がすごく好きなので、憧れる女性像も本の中の人物であったり、女性の作家さんだったり。

その時々で変わっていますが、賢く美しい女性にはいつも憧れています」

 

自宅は本だらけという小林さん。

タイトル買いをしたり、自分の好きな本をオススメしている方の推薦本をこまめにチェックしたりしているそう。

そこで、彼女のオススメの本をいくつか教えてもらった。

 

「池田澄子さんという俳人の方で、『思ってます』という句集がおすすめです。

あたりまえにある日常から、一気に過去や宇宙や魂へつながるような句に、いつも心打たれます。

他にも、津島佑子さんの絶筆である小説『狩りの時代』や、ジュリー・オオツカさんの『屋根裏の仏さま』という、20世紀初頭に写真だけを見てアメリカ大陸へ渡っていった〝写真花嫁〟を題材にした小説も面白いですよ

 

 

先頃まで、軽井沢ニューアートミュージアムで行われていた『Trinity展』では、初めてガラス作品に挑戦した。美しさに惹かれるというウランガラスで作ったドルマーク。


 

描きたいのは、目に見えないこと。

最後に、小林さんの今後の活動について率直に語ってもらった。

 

「コミックと小説、展示という表現で、目に見えない歴史のようなものを、今の私が生きているところから繋がっているように描いていけたらと思っています。

特に、コミック『光の子ども』でも題材にしている放射能は、良いとか悪いと言った時点で、何か見えなくなってしまうものが大きいと思うんです。

私は、そこからこぼれたものを見たいという気持ちなんですよね。

 

放射能って、それこそ発見された当時は夢みたいなエネルギーだったと思うし、それと同時にすごく恐ろしいものでもあって。

でも、私たちは綺麗なモノに、心から惹かれていきますよね。

例えば、ガラスにウランを少し混ぜると蛍光グリーンに光るんですけど、その姿がすごく綺麗なんです。

当時は、電力や火力でもない光り輝く何かってすごくレアな存在で。

それを見たときの感動たるや、すごいことだったんじゃないかと思っていて。

自分自身もそこに惹かれちゃうなっていうのがわかるから、それを含めて描いていきたいと思っています。

美しさと恐ろしさが一体化したものへ、一番興味が湧いています。

 

もう、勝手なミッション感ですね(笑)。

描きたいっていう気持が大きすぎて、それは多分一生解決しないことだから、自分の中で見えないゴールに向かって励むという感覚です。

自分が知りたい、納得できないことを解決したいという気持ち。

それを誰かに観てもらえたり、読んでもらえたりして、その人にとってこういう見方もあるんだなって思っていただけたら嬉しいですね」

 

小林さんの原動力は、純粋に〝見えないモノを知りたい〟という気持ち。

文字だけ並ぶと少し仰々しく感じるかもしれないけれど、

それは私たちが日々感じている気持ちとなんら変わらないのかもしれない。

クリエイターとして、そして母としてもますますパワーアップするであろう彼女の今後の活動も見逃せない。

 

 

【Profile】

小林エリカ(こばやし・えりか)

漫画家・作家・アーティスト。

著書に、アンネ・フランクの日記と実父の日記をモチーフにした小説『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)、小説『彼女は鏡の中を覗きこむ』(集英社)など多数。

今年の春には、第27回三島由紀夫賞候補、第151回芥川龍之介賞候補になった小説『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)の文庫が発売に。

連載も多数で、現在WEB『MilK JAPON』では「おこさま人生相談室』、雑誌『&Premium』では「文房具トラベラー』を担当中。

放射能の歴史をめぐるコミック『光の子ども』は、リトルモアWEBで不定期連載。コミック本『光の子ども1,2』(リトルモア)も発売中。

 

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