検索 はてなブックマーク

今回のテーマは「おいしくものを食べるには~田辺市・平山製菓の鈴まんじゅう~」【甲斐みのりの隙間の時間】

雑誌やwebメディア、書籍など、様々な場所で活躍する文筆家、甲斐みのりさんによる日々の気づきを記したエッセイです。

 「今まで食べた中で一番おいしく感じたのは、富士山の頂上で食べたおにぎり」と言う人の話を、とても羨ましく聞いた。何時間もかけてひたすら山頂を目指して山を登り、やっと辿り着いた日本一高い場所でほおばるおにぎりはどんなに美味しかったろう。それから隣にいた人が、「山小屋で食べたカップラーメンも美味しかったなあ」と続ける。夏でも肌寒い山道で、休憩がてら立ち寄った山小屋では、カップラーメンが普段の何倍かの値段だったそうだ。けれども今、自分が歩んできた道のりを食料を背負ってここまで届ける人のことを思うと、その値段でもありがたい。山中では水もお湯も温かい食べものも貴重で、体の温度を上げる小さなカップラーメンを、二人で分け合い大事にすすったと話してくれた。

 

 私が「おいしいものを食べるのが好きというより、おいしくものを食べるのが好き」だと思うようになったのは、そのことがきっかけに近い。それまで山登りをしてみたいと思ったことがなかったのに、「山頂でのおにぎり」を食べてみたさに、登山に憧れたほどだ。

 

 五つ星のレストランで腕のいいシェフが作る料理も、「おいしいね」と分かち合う人がいなければ、私の場合は味気なく感じてしまうだろうし、気のおけない友人たちと登山途中に食べたコンビニのチョコレートは、確かにとびきりの味がした。子どもの頃、夏になるとよく家族で庭にちゃぶ台を運んで、鉄板焼きやそうめんを食べたけれど、「庭で食べる焼き野菜や焼きそば」は大好物の一つだった。

 

 もちろん、素材がよくこだわりの工程で腕のいい職人が作るおいしいものに出会うことは、食いしん坊の私には至福そのもの。同時に、気のおけない仲間とならば、あらゆる状況でおいしくものを食べられる可能性が広がっている。

 

 作っている人に会ったり、作られている場所に出向いたり、どんなふうにそのものが味付けされ形になっているのかを知ることも、おいしくものを食べるコツ。色々なお菓子屋さんを訪ねたいと思うのも、おいしさを感じる気持ちをもっともっと膨らませたいからだ。

 

 9月の数日間、和歌山県田辺市に滞在していた。田辺とは縁が深く、観光案内冊子『暮らすように旅する田辺』を作らせてもらったりイベントを開催したり、親しい人も多い。これまで幾度も訪れては、おいしい体験を重ねている。梅、柑橘類、魚介類など田辺の名物はもちちんのこと、お菓子やパンや暮らす人の身近にあるものまで。

 

 何度かスーパーや産直で買っていた平山製菓の「鈴まんじゅう」が、できあがるまでを見ることができたのは偶然だった。「熊野本宮大社」へ向かう道の途中、「平山製菓」の看板を目にし、わざわざ引き返して立ち寄った。

 

 作業場の片隅に売り場も併設したこぢんまりとしたお店。和歌山県内のスーパーなどへお菓子を卸すのが主なようで、わざわざここまで買いに来るのはご近所さんが多い様子。

 

 カチャンカチャン、作業場から響くのは、50年近く使っているという鉄の型を開いたり閉じたりする音。鈴やバナナの型にカステラ生地を流し込み、餡を加えてふっくらと焼き上げる。

 

 これまで何度か買わせてもらっていることを伝えて、作業風景を写真に撮らせていただいた。何年も毎日ずっと、お父さんが一人で同じ作業を繰り返す。

 「鈴まんじゅう、バナナ焼き、野球カステラ」を袋に入れてもらうと、作りたてでほんわり温かい。今よりずっとバナナが高価で珍しい時代から、このお菓子が作られているのだと歴史を感じる。

 

 東京に帰って、おやつにみんなで。鈴まんじゅうはあんこ入り。バナナ焼きの中身は白あん。野球カステラのそれぞれの形に思わず笑みがこぼれる。お父さんが手作りする風景を思い出し、おいしさも倍増。今日もおいしく、おやつを味わえた。

 


鈴まんじゅうは、あんこ入り。


バナナ焼きの型に生地を流し込んでいるところ。


野球カステラ。左下のは、ベースボール。


バナナ焼き。中身は白あん。

Share
はてなブックマーク

おすすめ記事

関連記事

Follow us!
Follow us!